①ドライフライ
ドライフライは水面に浮くフライの総称で、フライフィッシングがもっとも得意とする分野です。
水面に浮いたフライに魚が食いつく瞬間はとても刺激的で、渓流ではドライフライしかやらないという人がたくさんいます。
実践スクールでもこの刺激に病みつきになる参加者がたくさんいらっしゃいます。ここではドライフライとはどんなもので、どんなヒントがあるかなど簡単に説明します。
ドライフライはどんなフライ
ドライフライは水面で餌を捕食している魚、水面を流れてくる餌を待っている魚を狙うためのフライで、餌となる昆虫(下の写真のようなカゲロウなど)が水面を流れるように自然に流したり、空中から落ちるたように魚の目の前にポトッ!と落としたりして魚を誘います。
水面上のフライは平面状の水面を流れるので釣り人がフライの動きを把握しやすく、水中に沈む(三次元)ウェットフライやニンフフライよりも簡単な釣り方と言える反面、魚が水面の餌を食べる状況にあるかなど魚の都合によるところが大きいので、状況をいかに判断するかがひとつの鍵になります。魚は水面でカゲロウ(メイフライ)の亜成虫(ダン)などを好んで食べる
水面で魚が餌を食べる条件はいくつかあります。魚が活発に動き回れる水温であること、水面上に餌があること、水面に出ても安全であることなどです。
ヤマメやニジマスの適水温は11℃前後といわれているので、養沢に当てはめると4月上旬頃ということになります。また水面上の餌となる水生昆虫のハッチは3月中旬頃から活発になり、6月上旬頃まで断続的に続くので、この2点を考慮すると養沢でのドライフライは3月中~下旬から6月上旬頃が良い条件と言えます。
魚が水面で餌を食べている証拠が下の写真のような波紋(ライズと言います)です。
ライズがあるかないかはドライフライで釣りができるかどうかの判断基準になりますし、ライズの大きさ、広がり方は食べているものの大きさや動きなどの情報源になります。
養沢のようにたくさん魚が放流されている場所では、ライズがなくてもドライフライで釣れることはたくさんありますが、早春などはライズがひとつの目安になります。左の写真は管理事務所下のライズです。
魚が水面で餌を食べるとこんな形に波紋が広がり、これをライズリングと言います。
定期的にライズしていたニジマスは、ハッチする直前のカゲロウ(水面に張り付いた状態)を食べていました。(ストマック情報2007.10.20のニジマス4)
魚は虫以外にも枝や葉っぱ、花など餌と思えないようなものも案外食べています。おそらく流れてきた様子が虫に似ていたので、思わず食べてしまった・・というのが本音でしょう。きっとフライをくわえるのもこんな感じなのでしょう。
何回が痛い目に遭って神経質になると強烈にフライの選り好みを始めますが、普通はフライの選択はかなり大雑把です。
魚は水面をどう見ている?
魚が水中から空中を見上げると、水面の反射と屈折で上方約100度の範囲(円)が見えるとされています。これをフィッシュウィンドウと言います。100度を超えた範囲では鏡のように水底を反射して水面上の様子はまったく分からないということですが、魚の目は偏光レンズを持っているので光が反射しにくいという説もあります。そうはいっても誰も魚になったことがないので人間の目で想像するしかありません。
下の写真は管理事務所下(堰堤上)で水中にカメラを入れて撮った写真です。見える範囲と水底が反射している範囲がまるで合成したかのごとくはっきりと写りました。これを見るとフィッシュウィンドウは本当に存在するように思えます。
実際に釣りをしてみるとさらに実感することがあります。
水深が浅いところにいるヤマメは30cmずれてフライを落とすと無視しても、10cmのところに落とすとほとんどの魚が反応をします。また水深があって透明度が高い湖では、ライズの数メートルの範囲にフライを落とせば魚がフライに反応することがよくあります。つまり浅いところにいる魚のフィッシュウィンドウは狭く、深いところにいる魚のフィッシュウィンドウは広いということです。
実際は水面の波の様子や光の加減で様子は変わってきますが、このフィッシュウィンドウのことを頭に入れておくと、フライをどこに落とすか、流すかのヒントになります。
フィッシュウインドウは円錐視野とかコーンビジョンなどとも呼ばれます。
これが本当に魚の視野だとすると、釣り人は魚を見つける前に魚に見つかっていることになります。思うように釣れないのは、水際に立って魚を蹴散らしてから釣っている可能性もあるわけです。
魚から見られている・・という意識を持てば、水辺にヌボーっと立って釣りをすることは少なくなるでしょう。
水中から写真を撮ったら、見事にフィッシュウインドウの境界が写りました。下側に写っているのは紛れもなく水底です。
この様子だと、確かに岸にいる釣り人は丸見えです。
魚の目からはどんなふうに見えるのかわかりませんが、日本毛鉤の名人が岩に隠れ、木に化け、這いつくばるようにして釣っている姿や、ニュージーランドのガイドが帽子の色、着ている洋服の色、フライラインの色までうるさく言うのは、きっと経験から来る理由があるからでしょう。
魚から見つからずに釣ることは、もしかするとフライの選択やキャスティングの技術よりも大事なことなのかもしれません。
フィッシュウインドウのもうひとつのヒント
フィッシュウィンドウにはもうひとつのヒントがあります。
下のイラストをご覧ください。フィッシュウィンドウの外側が上の写真のように水底を鏡のように映しているとすると、ボディの一部が沈んだ餌(またはフライ)は水面下の部分だけが直接魚の目に入ることになります
速い流れにいる魚は、フィッシュウィンドウに餌(またはフライ)が入った瞬間(見つけた瞬間)にアクションを起こしても間に合わないことがありますが、事前に一部でも見つけて準備できればフィッシュウインドウに入った瞬間に飛びつくことができます。
フィッシュウィンドウのことを知ると、速い流れでは水面高く浮くフライよりボディの一部が水面下に入るもののほうが効果がありそうだと想像できるし、フィッシュウィンドウ外は水底が写っているので、沈んだ部分の色も大事ということになります。
川底が白い流れでは黒っぽいフライが良く使われますが、これもただ単に人間が見やすいという理由だけではないようです。
ドライフライの大きさと形
使うフライの大きさや形は、魚が食べている昆虫の大きさや形に近いものを使うのが一般的です。(もちろん変則的なこともたくさんありまが)
養沢に例えると、3月上旬は小さなユスリカが主体でフライサイズにすると#20より小さなもの、中旬になるとやや大きめのカゲロウ(メイフライ)やトビケラ(カディス)がハッチを始めるのでフライサイズは#16前後、さらに4月上旬から5月には#14より大きなカゲロウやカワゲラ(ストーンフライ)が主体になります。
魚の餌になっている代表的な水生昆虫はカゲロウ類(メイフライ)、トビケラ類(カディス)、カワゲラ類(ストーンフライ)、ユスリカ、ガガンボなどです。フライフィッシング(特にドライフライ)はこれらの水生昆虫の羽化と密接な関係がありますので、どの時季にどんな大きさ、形の水生昆虫がハッチするかフライフィッシャー(フライの釣り人)の中にはやたら詳しい人がいます。
以下の写真はドライフライのモデルになる代表的な水生昆虫です。
ドラフライの種類
伝統的なトラディショナルパターン、実績があるスタンダードパターン、水生昆虫のハッチを意識したマッチ・ザ・ハッチパターンなど世界中のさまざまな人が考案した著名なパターンがたくさんあるほか、釣り人一人一人がオリジナルパターンを持っているので数え切れないほどの種類になります。
ここでは、養沢の管理事務所で販売されているものを中心に、ドライフライにはどんなパターンがあるか紹介します。
(使用する材料は「フライタイイング」の項で紹介します)